葦風の記録29

そうして、5段戦の三番勝負が始まった。

特筆すべきは、これが人生初の三番勝負だったことだ。

番碁というのは、普通の碁と全く違う。

わしはこの後、人生の節目において何回も強敵と番碁を争うことになるが、幼き日のこの経験が血肉となったのは間違いないだろう。

この厳しい勝負がわしの人生観、勝負観に与えた影響は測りしれない。

わしは善悪抜きで、勝負というものは何かを肌で本能で学んでしまったのだ。

あのヒリヒリするような緊張感は、わしの中で生涯つきまとうことになる。

第1局目。わしが途中で閃いて勝利。

第2局目。わしが圧倒的に不利な形勢だったが、途中で閃きが訪れて勝利。

結果、2連勝して優勝してしまったのだ。

わしは、S県史上最年少の6段となった。

これが良いことなのか悪いことなのか、わしには未だに分からない。

ただ、オヤジだけは天地がひっくり返るかのように、喜んでくれた。

だからまあ、良かったんだよな(笑