葦風の記録54
大勝負だった。
今でもあの時の熱は覚えている。ヒリヒリするような、勝負の熱感だ。
先の戦いではY井さんに助けてもらった。今度は わしの番だ。わしがこの勝負の決着を付けなければならない。
形勢は悪かった。逆転しなくてはならない。なんとしても この碁に勝たなくてはならない。
燃えた。Y井さん、I上さんと、三人で一緒に駆け上がるのだ。
集中。極限に集中するともはや、頭の中は空っぽだった。
その時、閃光のようにある手筋が閃いた。相手の石を分断する手筋だった。石を打ち下ろすと、相手は青ざめて投了した。
ついに、秀才軍団 筑駒の主将を倒したのだ。
この時 別のステージの扉が開き、経験したことのない風景が見えた。
この時 初めて自覚したのだが、勝敗が決まる重要な場面では、極度に集中できるのだ。
高校2年生のこの時、チームの運命がかかる大勝負を体験した。この経験が、どれだけその後の人生に役立ったことだろう。
なお後に大学時代、1対1もしくは2対2になったら(勝負処になったら)出雲屋に任せろ、と言われるまでに勝負強くなった。
その原点は、ここにあった。