葦風の記録21
わしも先生に一度だけ、「専門家になる気はありませんか」とプロに誘われたことがある。先生はよほどのことがないかぎり、弟子にブロは勧めなかったらしいから光栄な話だった。
先生自身もかつては細川千仭門下でプロ棋士を目指しておられたし、また吉田陽一九段を育てたという実績もあった。プロを目指すルートは確かにあったのだ。
しかし、わしは目指さなかった。
なぜだったのか。
上手く言えないが本能が訴えたのだ。
わしは楽しいことが大好きだ。
プロになれば、囲碁は生活そのものとなり楽しさが減る気がした。
それからまた話す機会もあると思うが、わしは当時から囲碁とは勝負を争うべきものとは思っていなかった。
それにもっといろんな世界を見たかった。
プロを目指さなかったことに今も悔いはない。