葦風の記録49

高校2年になったわしは、相変わらず囲碁の訓練に明け暮れていた。

そんなある日、道場に行って先生に指導碁を打ってもらおうとすると、先生から奇妙な提案があった。

「この碁は、初手を天元に打ちなさい。そしてその後、私のマネをしなさい。機が訪れたら、どちらかが変化してマネをやめよう。」

わしは瞬時に理解した。これは いわゆる「太閤碁」だ。太閤秀吉が編み出したという有名な戦法だ。

太閤碁は、形がない碁になるため、素の実力がモロに出る。先生は、なぜかわしを試そうとされていた。

対局が始まった。

わしは普段通り伸び伸び打った。数十手進んだだろうか。先生は気合い鋭く天元の横にツケてこられた。いわゆるマネ碁破りだ。そのあとは、凄まじいねじりあいとなった。しかし、わしが冷静に攻め合いを制し、中押勝となった。

先生は、とても満足そうな顔をされた。

そして大きな本をくださった。「本因坊秀哉全集」だった。

「これからは、これを並べて練習しなさい。」先生は静かに言われた。

わしは、これを免許皆伝と受け取った。

 

先生は、数年後にお亡くなりになった。わしはこの日のこの時、先生の技と精神を真に継承したと思っている。