高校2年になったわしは、相変わらず囲碁の訓練に明け暮れていた。
そんなある日、道場に行って先生に指導碁を打ってもらおうとすると、先生から奇妙な提案があった。
「この碁は、初手を天元に打ちなさい。そしてその後、私のマネをしなさい。機が訪れたら、どちらかが変化してマネをやめよう。」
わしは瞬時に理解した。これは いわゆる「太閤碁」だ。太閤秀吉が編み出したという有名な戦法だ。
太閤碁は、形がない碁になるため、素の実力がモロに出る。先生は、なぜかわしを試そうとされていた。
対局が始まった。
わしは普段通り伸び伸び打った。数十手進んだだろうか。先生は気合い鋭く天元の横にツケてこられた。いわゆるマネ碁破りだ。そのあとは、凄まじいねじりあいとなった。しかし、わしが冷静に攻め合いを制し、中押勝となった。
先生は、とても満足そうな顔をされた。
そして大きな本をくださった。「本因坊秀哉全集」だった。
「これからは、これを並べて練習しなさい。」先生は静かに言われた。
わしは、これを免許皆伝と受け取った。
先生は、数年後にお亡くなりになった。わしはこの日のこの時、先生の技と精神を真に継承したと思っている。